きたいま歯科開業後、院内感染対策に熱心な熊本の生田先生のセミナーに参加する機会がありました。
「患者さんがタービンで感染しているか感染していないのかは、関係ない。滅菌は医療者として当然のことで、いくら保険点数が少ないと言っても、滅菌はするべき。滅菌は愛だよ」
と教えていただきました。
昔の歯科では、治療器具をアルコールガーゼで拭いただけで、また次の患者さんに使うということがほとんどでした。外科手術を行うわけではないですし、それで大丈夫、という思い込みが歯科全体にあったのだと思います。
ところが、かつて一般の病院で注射針の使い回しを行なっていることが取り上げられ、「院内感染」という言葉が一気に広がりました。
平成26年5月18日の読売新聞に上記の記事がありました。
回答率が28%ですし、私の知りうる範囲では、実際にはきちんと滅菌をしている医院の割合は、もっと少ないと思います。
院内感染というのは、歯科医院に治療に来た患者さんがかかっている感染性の病気が、院内で他の患者さんに感染してしまうことです。
歯科医院では、たとえば、A型肝炎・B型肝炎・C型肝炎・梅毒・エイズ・MRSA・大腸菌・ウィルス性感染症・インフルエンザ・風疹・肺炎・結核・伝染性が高い皮膚疾患などの病気の方の歯の切削片、血液、唾液が、大小さまざまな機械器具を介して、感染症を引き起こす可能性があると言われています。
ところが、滅菌に関わる器械の購入に国の補助などはなく、すべて医院が自腹で購入することになります。新聞にもある歯を削る器械(タービン)も、安くても1本10万円以上します。滅菌している間はタービンが使えないので、ユニット(診療台)1台あたりに数本ずつの予備が必要になります。また、タービンは使えば詰まります。何度も高圧滅菌を繰り返していくと劣化するので、滅菌をしない場合と比べて買い替えのスピードも速くなります。
タービンの適切な管理には、洗浄、注油、滅菌という3つの重要な要素が必要です。時間と手間がかかる手作業による洗浄では内部のクリーニングは不可能です。また、手で行う注油は個人差があり必ずしも十分とは言えません。洗浄、注油、滅菌の工程に2時間近くもかかります。スタッフの仕事はタービンの管理だけでなく、他の器具の洗浄などもありますので、この工程だけに2時間とられるのは大変だと思います。
患者さんの安全を守るために、医院の持ち出しで赤字になっても当たり前のこととして、喜んで滅菌に投資できるか、それとも、出ていくお金の心配をして出し渋るか、ここが、医療者としての良心と良識が問われる一つの分岐点だと、私は感じています。
また、この記事によると、残りの3割の医院では滅菌されているということですが、実はこの3割の中でも違いがあります。
それは、
・タービンの外部だけを滅菌しているのか?
・タービンの外部だけでなく、内部まで滅菌しているのか?
という違いです。
滅菌器の性能向上も日進月歩で、今は、『洗浄、注油、滅菌』がなんと12分で出来るという画期的な滅菌器が開発されました。タービンの劣化も防ぐことができる優れものです。
ドイツ製の高額な器械ですが、スタッフの労力と滅菌の確かさを考えて、これまでの滅菌器と併用して当院でも平成22年3月から導入しています。
タービン内部まで注油、洗浄、滅菌できる滅菌器は、日本では一機種しか販売されていません。
この滅菌器は、愛知県内にある約3,900件の歯科医院中、103医院(2.6%)のみ設置されているとのことです。(H26.6.1現在)
当院では、全ての患者様ごとに、外部、そして内部まで滅菌されたタービンを交換・使用していますので、ご安心ください。
(上記の新聞の記事が出た直後から、関東地方では(読売新聞なので関東地方の方々はよく目にされるとのことです)、この機会に注文が殺到して、現在は欠品状態だそうです。)
歯科医院に通院したために、別の患者さんの病気に感染させてしまっては意味がありません。いくら良く咬めて見た目もよくなっても、肝炎になってしまっては本末転倒です。もし、私が患者さんの立場だったら、やはり滅菌のきちんとしている歯科医院に通院したいと思います。
医院にとって1円の儲けにもならないことだから、と滅菌に無関心な先生もいまだにいるようですが、医療機関である以上、滅菌や消毒ははされていて当然で、きたいま歯科でもそうありたいと思っています。また、当院では、治療椅子も患者さんごとに、終わったら専用の洗剤を使って拭いています。外食で、お客様の食事が終わった際に、きれいにテーブルを拭くのと同じです。実はきたいま歯科に通院してみえる方には、医療関係者の方も多いです。それだけ目も厳しいと思いますし、そのような方々にも安心して通院していただけるのはうれしい限りで、襟を正さなければといつも思います。